リバランスはリターンを向上させるか 理論編

リバランスとはポートフォリオにおけるアセットアロケーションを所定の割合に再配分することですが、これがリターンの向上につながるかを考えてみます。

工学では理論・実験(実測)・数理(シミュレーション)が互いの結果を補足しあって発展してきたことにちなみ理論・実験・数理の3本柱でリバランスのリターン向上寄与を検討します。

理論_実験_数理

長くなるので今回は理論編のみです。

リバランスボーナスはリターンの改善を約束しない

ニッセイ基礎研究所 「水からワイン」:リバランスボーナスを理解する

実はリバランスにより一定の資産配分を保った場合、ポートフォリオの幾何平均リターンは、そのポートフォリオを構成する各資産の幾何平均リターンに、それぞれのウェイトを乗じた数値の合計を常に上回る

リバランスボーナスはなぜ生じるか

ニッセイ基礎研究所にリバランスボーナスの導出式があります。上記の(3)式です。日本語と式の対応が分かりにくいので下記に示しました。

リバランスボーナス式

上記の式はリバランスありのほうがリバランスボーナス分だけリバランス無しのバイ&ホールド(以下単にバイ&ホールドと書きます)よりリターンが高いという意味ではありません

なぜならば上式に緑字で書いたポートフォリオを構成する各資産の幾何平均リターンにそれぞれのウェイトを乗じた数値の合計よりバイ&ホールドのリターンのほうが高いからです。(自明ではないかもしれないので後日計算で証明します)(2016年8月11日追記:こちらで証明しました)

ニッセイ基礎研究所のこの記事を書いた方もリバランス有りのほうが必ずしもバイ&ホールドより高いリターンを得られるわけではないということは重々承知のようで、同記事にも

リバランスした結果、リターンが改善するかどうかは買い戻した資産のリターンが売却した資産のリターンを上回るかどうかによる。

とあります。これは当たり前の話です。しかしながら記事には

リバランスボーナスの獲得は必ずリターンを改善する

とも書いてあり、リバランスをしたら必ずバイ&ホールドよりリターンが向上すると誤解させかねない表現となっているので注意が必要です。

リバランス有りがバイ&ホールドより良いリターンを示すかは条件次第

記事中の式によると個別資産のボラティリティが高くなるほど、またリスク分散により資産全体のボラティリティが低くなるほどリバランスボーナスが高くなります。

個別資産のボラティリティが高いにも関わらず資産全体のボラティリティが低いということは資産間の相関係数が低いということです。そこで理想的&単純なモデルケースとして相関係数-1の2資産(資産A、資産B)でのリバランスを考えてみます。資産配分は均等で毎年リバランスするものとします。

資産A、資産Bの値動きもごく単純なものにします。資産Aは1年ごとに+10%と-5%のリターンを2分の1の確率で取り、資産Bは1年ごとに+9.9%と-5.1%のリターンを2分の1の確率で取ります。相関係数は-1なので資産Aのリターンが+10%のとき資産Bのリターンは-5.1%、資産Aのリターンが-5%のとき資産Bのリターンは+9.9%です。

このときの資産A、資産B、ポートフォリオ全体のリターンを表にするとこんな感じです。

2資産(相関係数-1)の

リバランスボーナス

資産A 資産B

ポートフォリオ全体

(資産A 50% + 資産B 50%)

1年目 +10% -5.1% +2.45%
2年目 -5% +9.9% +2.45%
3年目 -5% +9.9% +2.45%
4年目 +10% -5.1% +2.45%
5年目 -5% +9.9% +2.45%

幾何平均リターン

+2.23% +2.13%  +2.45%

幾何平均リターンに

ウェイトを乗じた数値

+2.18%  

 リバランスボーナスは0.27%

(=2.45%-2.18%)

驚くべきことにポートフォリオ全体のリターンは最もリターンの高い資産Aのリターンを上回っています。これがリバランスボーナスの力です。このケースではリバランスボーナスは0.27%です。

バイ&ホールドのリターンは投資年数に依存しますが、資産Aのリターンのほうがわずかによいため徐々にポートフォリオ内の資産Aの比率が高まって行き最終的には資産Aの幾何平均リターン2.23%に漸近します。リバランス有りは2.45%のリターンのためこの場合はリバランス有りのほうがバイ&ホールドより良いリターンを得ることができます。

上記はリバランスボーナスを最大化するような条件で考えましたので、今度はリバランスボーナスを最小化する条件で考えてみます。すなわち相関係数1です。資産Aのリターンが+10%のとき資産Bのリターンは+9.9%、資産Aのリターンが-5%のとき資産Bのリターンは-5.1%です。

このときの資産A、資産B、ポートフォリオ全体のリターンを表にするとこんな感じです。

2資産(相関係数1)の

リバランスボーナス

資産A 資産B

ポートフォリオ全体

(資産A 50% + 資産B 50%)

1年目 +10% +9.9% +9.95%
2年目 -5% -5.1% -5.05%
3年目 -5% -5.1% -5.05%
4年目 +10% +9.9% +9.95%
5年目 -5% -5.1% -5.05%

幾何平均リターン

+2.23% +2.13%  +2.18%

幾何平均リターンに

ウェイトを乗じた数値

+2.18%  

 リバランスボーナスは0%

(=2.18%-2.18%)

相関係数が1のときリバランスボーナスは0%です。バイ&ホールドのリターンは先ほどと同様に資産Aの幾何平均リターン2.23%に漸近します。リバランス有りは2.18%のリターンのためこの場合はバイ&ホールドのほうが最終的にはリバランス有りより良いリターンを得ることができます。

リバランスボーナスを最小化するもう1つの条件を考えます。個々の資産のボラティリティが0の場合です。資産Aと資産Bの幾何平均リターンは上記と同じくそれぞれ+2.23%、+2.13%とします。ボラティリティが0ということは毎年同じリターンなので資産Aと資産Bの相関係数は算出不可能です。

このときの資産A、資産B、ポートフォリオ全体のリターンを表にするとこんな感じです。

2資産(ボラティリティ0)の

リバランスボーナス

資産A 資産B

ポートフォリオ全体

(資産A 50% + 資産B 50%)

1年目 +2.23% +2.13% +2.18%
2年目 +2.23% +2.13% +2.18%
3年目 +2.23% +2.13% +2.18%
4年目 +2.23% +2.13% +2.18%
5年目 +2.23% +2.13% +2.18%

幾何平均リターン

+2.23% +2.13%  +2.18%

幾何平均リターンに

ウェイトを乗じた数値

+2.18%  

 リバランスボーナスは0%

(=2.18%-2.18%)

2資産のボラティリティが0のときリバランスボーナスは0%です。バイ&ホールドのリターンは先ほどと同様に資産Aの幾何平均リターン2.23%に漸近します。リバランス有りは2.18%のリターンのためこの場合はバイ&ホールドのほうが最終的にリバランス有りより良いリターンを得ることができます。

以上よりリバランス有りがバイ&ホールドより高いリターンを示す条件がわかりました。(リバランスボーナスを最大化する条件と同じです)

・個々の資産の相関係数が低い

・個々の資産のボラティリティが高い

また計算はしませんが、資産間のリターンに差がないほうがリバランス有りが有利になります。これは例えばリターンが突出して高い資産がある場合はバイ&ホールドのポートフォリオ内でその資産の割合が大きくなりポートフォリオ全体のリターンがその資産に引っ張られるからです。それと比較してリバランス有りのポートフォリオは毎年各資産の平均的なリターンしか得られないので長期的にはバイ&ホールドのリターンのほうが高くなります。

リバランスのリターン向上寄与に対して理論は中立

これまで書いてきたとおりリバランス有りがバイ&ホールドのリターンを上回るかどうかは結局ポートフォリオの資産の特性(リターン、ボラティリティ(リスク)、相関係数)によります。理論はあくまで中立で結論は「条件による」でした。

条件によるという結論だけでは何も決めることができません。現実的な投資対象を考えたときに100%の答えではないにしろリバランスしたほうが確率的にベターなのかどうか?を探る必要があります。

次の記事では現実的な条件での数理(シミュレーション)で検討してみます。

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