トンチン年金を金融商品として評価する

前回のブログ記事で長生きリスク対策としてトンチン年金について触れました。

おさらいですがトンチン年金とは年金受取開始前の年齢で亡くなると掛け捨てである代わりに高い年金を受け取れる(あるいは安い掛け金で済む)年金です。純粋生存保険とも言うそうです。

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例えば8人の参加者が100万ずつお金を持ち寄ったとします。集まったお金は800万です。20年後にこのうち2人しか生きていなければ集まった800万はこの2人で山分けできます。1人400万なので20年で4倍に殖えました。これがトンチン年金です。ちなみにこの場合は20年の平均利率が年7.2%(=4^(1/20))です。低金利が続く日本ではかなり魅力的な商品といえるでしょう。

このようにトンチン年金は生き残りゲームの側面がありますが、実際の死亡率を考えたときのトンチン年金の利率はいくらなのか?いくら払えば終身で十分な額をトンチン年金でもらえるのかなどを検討してみたいと思います。

※死亡率をダイレクトに利率に変換します。他人の死を利率に変換することにお気を悪くされる方もいるかもしれませんがトンチン年金を金融商品として評価する以上の他意はありませんのでご了承ください。

高齢者ほど高利率

厚生労働省の出した簡易生命表(平成27年度)によると各年齢の死亡率は以下の通りです。

死亡率

生き残りゲームにおいて利率と死亡率は利率=1/(1-死亡率)-1の関係にあります(手数料などは無視してあります)。例えば死亡率が0.5(50%)なら利率は1(+100%)です。死亡率は年齢によって違うのでトンチン年金の利率も当然年齢によって違います。

簡易生命表の死亡率から算出した各年齢の利率は以下の通りです。

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40歳

50歳

60歳

70歳

80歳

85歳

90歳

95歳 

100歳

利率 男性

 0,1%

0,3% 0,7% 1,8% 5,1% 9,8%   17,9% 30,6% 49,2%
女性 0,1% 0,1% 0,3% 0,7% 2,4% 5,1% 10,7% 21,3% 39,3%

男性だと44歳まで、女性だと55歳までは利率が0.1%程度なので魅力的な商品には思えません。若いうちからトンチン年金に入る理由はないでしょう。

ところが80歳あたりから男女とも利率がグッと伸びてきます。男性の場合80歳から、女性の場合は85歳から利率が5%を超えてきます。しかも利率は年齢を重ねるごとに加速度的に増えていきます。

累積額は桁違い

例えば65歳で100万円をトンチン年金に払ったとして上のグラフにある利率をかけるといくらになるのでしょうか?

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簡易生命表に死亡率が掲載されていた最高齢の104歳までの累積額は男性で4億8700万、女性で9800万でした。かなりもらえますね。ビックリです。65歳~104歳の39年間での平均年率は男性で17.2%、女性で12.5%でした。なんとも驚きの利率ですがもちろんこれは生存率が低いことの裏返しです。男性の105歳での生存率は0.18%(およそ5000人に1人)と低いので生き残りゲームの報酬もそれだけ高くなっているだけです。

さすがに年齢と金額に現実感がないので100歳くらいまでの領域を拡大してみます。

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65歳~100歳の5歳ごとの累積額は以下の表のとおりです。

 

65歳

70歳

75歳

80歳

85歳

90歳

95歳

100歳

男性 累積額 100万 107.7万 120.9万 147.3万 213.1万

413.4万

1268万 7091万
平均年率 1,5% 1,9% 2,6% 3,9%

5,8%

8,8% 12,9%
女性 累積額 100万 103万  108.3万 118.8万

143.5万

211.6万

 456万 1772万
平均年率 0,6% 0,8% 1,2%

1,8%

3,0%

5,2% 9,6%

このようにトンチン年金の累積額は驚くほど高くなります。しかも株式や債券と違い利率がマイナスになることはありませんし、日本人の死亡率がこれ以上大きく変わらないでしょうから上記の利率をほぼ確実に得ることができます。

問題は1点だけ。その年齢まで生きられるかどうかです。

トンチン年金における保険会社の役割

これまでの試算は個人がお金を持ち寄ったときの利率を計算したものです。この利率が成立するには

  • 多数の同年齢が
  • 同金額を
  • 同時期に持ち寄り
  • 受取までの数年~数十年の間お金を管理し
  • 受取時に全員の生死確認して分配する
  • 金額、受取時期(年齢)、お金の運用方法、生死確認方法は最初に全員の合意を得る

必要があります。これは現実的ではありません。

そこで保険会社の登場です。複数の個人間で長生きリスクを共有するのではなく巨大な資本を持った保険会社が個人の長生きリスクを引き受けることでトンチン年金の流動性を確保できます。

保険会社はあくまで確率(死亡率)に則って利率を算出するだけなので個人の様々なニーズに対応することができます。いくら支払うか、支払い方法は積立なのか一括か、支払い時期(年齢)はいつ(何歳)か、受取は一括か終身か、受取はいつ(何歳)かなどです。

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終身で受け取りたい場合は年齢ごとにおける平均余命が計算に役に立ちます。例えば簡易生命表によると90歳女性の平均余命は5.7年です。90歳で一括500万受け取ることと90歳から年87万(500万/5.7年)終身で受け取ることは期待値としては同じです。(※実際は受取を遅らせる期間だけ保険会社がお金を運用できるため終身のほうが期待値は高くなるべきですが、簡単のためここでは省いてあります)

保険会社がトンチン年金を商品化した場合の受取額試算

65歳で100万支払った場合の受取額を一括受取と終身で算出しました。終身でもらえる額は上述の通り一括受取額を平均余命で割ってあります。

65歳で100万支払った場合のトンチン年金受取額

一括受取:(万)

終身:(万/年)

受取年齢
70歳 75歳 80歳 85歳 90歳 95歳 100歳
男性 一括受取 107,7 120,9 147,3 213,1 413,4 1268,0 7091,5
終身 6,9 10,0 16,6 33,8 94,4 410,3 3180,0
女性 一括受取 103,1 108,3 118,8 143,5 211,6 456,1 1773,0
終身 5,2 6,9 10,1 17,1 37,1 120,4 703,6

ただこの受取額は保険会社の手数料を考慮していません。実際の受取額は手数料を差し引いた額になるでしょう。参考に手数料を開示しているライフネット生命のHPを見てみます。

保険料の内訳もすべて公開しています  ライフネット生命

保険額によっても変わるようですがライフネットの生命保険手数料はおおよそ20%~40%です。そこで手数料を30%として再度トンチン年金の受取額を算出してみました。

65歳で100万支払った場合のトンチン年金受取額 (手数料30%)

一括受取:(万)
終身:(万/年)
受取年齢
70歳 75歳 80歳 85歳 90歳 95歳 100歳
男性 一括受取 75,4 84,6 103,1 149,1 289,3 887,6 4964,0
終身 4,8 7,0 11,6 23,6 66,1 287,2 2226,0
女性 一括受取 72,2 75,8 83,1 100,5 148,1 319,3 1241,1
終身 3,6 4,8 7,1 12,0 26,0 84,2 492,5

当たり前ですが金融商品として手数料30%は高すぎます。この手数料を取り返すのに男性だと15年(65歳~80歳)、女性だと20年(65歳~85歳)掛かってしまっています。これでは顧客が集まらないでしょうから企業努力で手数料を下げていただく必要はあるでしょう。

死亡率は年々低下しており平均寿命も延びていることから保険会社はある程度余裕を持った受給額を支給せざるを得ません。手数料の引き下げにはおのずと限界があるでしょうから株やETF並みに引き下げるのは不可能でしょう。仮に手数料を10%に出来たとしてトンチン年金の受取額はどうなるでしょうか?支払い年齢も変えながら算出しました。

65歳で100万支払った場合のトンチン年金受取額 (手数料10%)

一括受取:(万)
終身:(万/年)
受取年齢
70歳 75歳 80歳 85歳 90歳 95歳 100歳
男性 一括受取 97,0 108,8 132,5 191,8 372,0 1141,2 6382,3
終身 6,2 9,0 14,9 30,4 84,9 369,3 2862,0
女性 一括受取 92,8 97,5 106,9 129,2 190,5 410,5 1595,7
終身 4,7 6,2 9,1 15,4 33,4 108,3 633,2

70歳で100万支払った場合のトンチン年金受取額 (手数料10%)

一括受取:(万)
終身:(万/年)
受取年齢
75歳 80歳 85歳 90歳 95歳 100歳
男性 一括受取 101,0 123,0 178,0 345,3 1059,2 5923,9
終身 8,4 13,8 28,2 78,8 342,8 2656,5
女性 一括受取 94,6 103,7 125,3 184,8 398,3 1548,1
終身 6,0 8,8 14,9 32,4 105,1 614,3

75歳で100万支払った場合のトンチン年金受取額 (手数料10%)

一括受取:(万)
終身:(万/年)
受取年齢
80歳 85歳 90歳 95歳 100歳
男性 一括受取 109,6 158,6 307,6 943,7 5277,9
終身 12,3 25,1 70,2 305,4 2366,8
女性 一括受取 98,7 119,2 175,8 379,0 1473,2
終身 8,4 14,2 30,8 100,0 584,6

80歳で100万支払った場合のトンチン年金受取額 (手数料10%)

一括受取:(万)
終身:(万/年)
受取年齢
85歳 90歳 95歳 100歳
男性 一括受取 130,2 252,6 774,9 4333,8
終身 20,6 57,7 250,8 1943,4
女性 一括受取 108,7 160,3 345,6 1343,5
終身 12,9 28,1 91,2 533,1

85歳で100万支払った場合のトンチン年金受取額 (手数料10%)

一括受取:(万)
終身:(万/年)
受取年齢
90歳 95歳 100歳
男性 一括受取 174,6 535,6 2995,5
終身 39,9 173,3 1343,3
女性 一括受取 132,7 286,1 1111,9
終身 23,3 75,5 441,2

90歳で100万支払った場合のトンチン年金受取額 (手数料10%)

一括受取:(万)
終身:(万/年)
受取年齢
95歳 100歳
男性 一括受取 276,1 1544,0
終身 89,3 692,4
女性 一括受取 194,0 754,1
終身 51,2 299,2

95歳で100万支払った場合のトンチン年金受取額 (手数料10%)

一括受取:(万)
終身:(万/年)
受取年齢
100歳
男性 一括受取 503,4
終身 225,7
女性 一括受取 349,8
終身 138,8

さらに終身年金で年120万(月10万)を貰うには一括でどれだけ払えばよいのかも算出してみました。

終身年金で年120万(月10万)貰う場合の一括支払い額 (手数料10%)

一括支払い額(万) 受取開始年齢
70歳 75歳 80歳 85歳 90歳 95歳 100歳
男性 支払年齢 65歳 1742 1100 724,4 355,4 127,2 29,2 3,8
70歳 1293 780,4 382,9 137,0 31,5 4,1
75歳 876,0 429,7 153,8 35,4 4,6
80歳 523,4 187,3 43,1 5,6
85歳 270,9 62,3 8,0
90歳 120,9 15,6
95歳 47,8
一括支払い額(万) 受取開始年齢
70歳 75歳 80歳 85歳 90歳 95歳 100歳
女性 支払年齢 65歳 2319 1741 1191 702,4 323,2 99,7 17,1
70歳 1794 1228 724,0 333,2 102,8 17,6
75歳 1290 760,8 350,1 108,0 18,5
80歳 834,3 383,9 118,4 20,3
85歳 463,9 143,1 24,5
90歳 211,0 36,1
95歳 77,8

受取開始年齢と支払年齢は個人のマネープランごとに選択する必要がありますが、例えば仕事を辞めた65歳で一括で支払って寿命中位数(50%が生存している年齢)以降に終身年金で貰おうする場合を考えます。簡易生命表によると男性の寿命中位数は83歳、女性の寿命中位数は89歳です。

上記の表から男性なら65歳時に355,4万を払っておけば85歳以降終身で年120万もらえます。また女性なら65歳時に323,2万を払っておけば90歳以降終身で年120万もらえます。支払いが一生涯続く終身年金の支払い額としてはそんなに悪くないのではないでしょうか。

次回の記事でどんなひとがトンチン年金を活用すべきか、また公的年金などと組み合わせてどのように活用すべきかを書きたいと思います。

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