市場の非効率性を証明する

株投資のバイブルとも言うべき本の1つにウォール街のランダム・ウォーカーがあります。もちろん私も読みました。

著者は「効率的資本市場」を唱えておりインデックスファンドへの投資がベストであると主張しています。私もインデックス投資をしておりますがそれは市場が効率的であるからと考えているからではありません。というか市場は非効率的だと考えています。

今回は株式市場が非効率的であることを”証明”し、個人投資家でもその非効率性の恩恵に与れる可能性を模索してみたいと思います。

注:市場は人間が作っているものであることを考えると原理的に「完全に効率的」ではありえません。例えばインサイダー取引で市場平均を上回ることは可能でしょう。そのような特別な状況のものではなく、市井の個人投資家でも恩恵に与れるような非効率性があるかどうかを考えます。

効率的な市場では平均以上の実績を得るのは不可能

そもそも効率的な市場とは何でしょうか?Wikipediaから引用します。

Wikipedia 効率的市場仮説

金融経済学における効率的市場仮説 (こうりつてきしじょうかせつ、英: efficient-market hypothesis, EMH) とは、市場は常に完全に情報的に効率的であるとする仮説[1]。ここで言う情報的に効率的であるとは、金融市場における金融商品の価格がその商品の価値を決定づける情報を反映しているという意味である。効率的市場仮説に従えば、株式取引は株式を常に公正な価格で取り引きしていて、投資家が株式を安く買うことも高く売ることもできないということになる。すると、銘柄の選定や市場のタイミングから市場の平均以上の実績を得るのは不可能である[2]。

上記引用で重要なのは特定の手法(銘柄選定やタイミングなど)で平均以上の実績を得るのは不可能であるということです。すばらしい実績を挙げた投資家やファンドがあってもそれはたまたまであり、偶然の域をでないというのが効率的市場仮説の主張するところです。

偶然でなく平均を上回れれば非効率性を証明できる

「市場が効率的であるなら特定の手法で平均以上の実績を挙げるのは不可能」とすると、「ある特定の手法で(偶然ではない確率で)平均を上回ることができるなら市場は非効率的」といえます。実際に特定の手法で偶然ではないレベルで平均以上の実績をあげることが可能なら「市場が効率的である」という仮説が間違っていると考えるしかないからです。数学で言うところの背理法ですね。

今回の記事で採用する具体的な「特定の手法」、「市場の平均」、「偶然ではない確率で上回るかの判断基準」は以下の通りです。

  • 特定の手法:スマートベータ(以下、SB)指数への投資
  • 市場の平均:時価加重による平均。例えば日経平均やS&P500などの指数が市場平均にあたる。
  • 偶然ではない確率で上回るかの判断基準:統計的に意味のある差が出るかどうか

つまりSB指数が時価加重平均の指数を上回るかを統計的に解析するということです。

効率性を検証する主旨からいえば「特定の手法」は何でもよいのですが、SB指数を選んだのはそれが個人投資家でも気軽に実践できる投資手法だからです(世の中にはSBに連動するインデックスファンドやETFがいくつもあります)。またデータが手に入りやすいと言う理由もあります。

解析データの選定

市場は米国の株式市場としました。世界的に見て最も効率的な市場な気がしたからです。米国市場で非効率性を証明できれば一番インパクトがあるかと思いました。他の地域での解析もいつかやるかもしれません。

実際に解析したデータは以下の通りです。

  • 米国大型株(Large&Mid cap)
  • データ取得期間:1994年6月末~2016年12月末(MSCIからデータ取得できた最長の期間)
  • 指数:時価加重平均の指数はMSCI USAを採用。SBはMSCI USAを親指数とした以下の指数を採用。全てGross(配当再投資、課税無し)、通貨は米ドル。
    • モメンタム
    • クオリティ
    • リスクウェイト
    • 等配分 (均等ウェイト)
    • 高配当
    • 最小分散
    • バリュー
  • 出典 MSCI

世の中にSBは何種類もあり全てを解析できているわけでないですが、主要なものは入れたつもりです。それぞれのSBの意味はMSCIパンフレット(googleの検索ページに飛びます)を参照ください。

統計的な解析手法

月率リターンは正規分布すると仮定しSBと時価加重のリターンの差が有意なものであるかを検定します。検定手法はt検定あるいはz検定です。

検証結果:SBは時価加重平均を有意(?)に上回る

先に結論を言うとSBは時価加重平均を上回りましたがその差が有意といえるかどうかは微妙でした。後述しますが差がでるような強引な解析をすれば有意といえなくも無いかな?というレベルです。

非効率性を証明すると冒頭で言った割には歯切れの悪い結果でスミマセン。

しかしながら途中の解析結果はなかなか面白いものでした。まずはSBと時価加重のグラフをご覧ください。

全体的な傾向はSB>時価加重平均である

これは1994年6月末に100ドル投資したとして2016年12月末に投資額がいくらになっていたかを示したものです。SBと時価をグラフの右側に順位ごとに並べました。SBの投資額は最終的に712ドル~1481ドルで最も成績がよかったのはモメンタム、悪かったのはバリューとなりました。

時価加重は最終的に792ドルとなり、8指数中7位でかなり低めの順位となりました。

各指数の年率Returnと年率Volatilityは以下の通りです。(※1994年は6月末からのデータしかなく中途半端なため年率Volatilityは1995年~2016年のみのデータで計算しました)

上記グラフより少なくともSB>時価(市場平均)というおおまかな傾向を認めることができました。次にこの差は統計的に意味のあるものなのかを検討します。

月率returnではっきりとした差を見出すのは難しい

SB全ての月率returnと時価の月率returnにヒストグラムがこちらです。SB全て(270ヶ月 x 7指数 =1890個)と時価(270ヶ月)ではデータの個数に差があるので頻度は規格化してあります。

  月率return 

平均 標準偏差
SB全て 0.95% 4.1%
時価加重 0.86% 4.3%

平均値はSBのほうが高いですが、平均値の差(0.95-0.86=0.09%)に対して標準偏差が大きすぎてヒストグラムから平均値の差を見出すのは難しくなっています。SBのほうが平均値が高いことは事実ですが、この差が統計的に意味のある差なのかどうかを調べるためはt検定する必要があります。

SB全ての月率return(1890個)と時価の月率return(270個)をt検定してみた結果、p値は0.363でした。一般的にp値は0.05か0.01以下でないと有意な差であるとは言いません。今回の結果からは有意な差が観測されたとは言えないということです。

データをいじれば有意な差がでる

データをいじるといっても都合のよい期間を取り出したり最も成績のよかったモメンタムのみを時価加重と比較するということではありません。SBのreturnを時価のreturnで割ることにより「SBを指数を選んだことによる上乗せ効果」みたいなものを解析します。例えばSBのリターンが10%、時価のリターンが5%の時は上乗せ効果は4.76%(1.1/1.05=1.0476)です。

上乗せ効果は存在する

それぞれのSBについて各月で上乗せ効果を算出するとデータは270ヶ月 x 7指数 =1890個得られます。上乗せ効果のヒストグラムがこちらです。

月率returnの

上乗せ効果 

平均 標準偏差
SB全て 0.11% 1.80%

これまたかなり微妙なヒストグラムですが一応上乗せ効果はプラスになりました。市場が効率的なら上乗せ効果は存在しないはずなので、上乗せ効果が有意に0%より大きいのかを検定するために「上乗せ効果の平均値は0%である」という仮説でz検定します。

※理由説明は省きますが、一般的にt検定よりz検定のほうが同じデータ数(標本数)でも有意な差が出やすいです。z検定できるように上乗せ効果を算出したのですが、厳密には認められないかもしれません。

z検定の結果p値は0.005でした。十分小さな値であり、上乗せ効果は存在すると言っていいでしょう。

これでめでたく市場の非効率性を証明できたことになります。

参考:SB全てに投資すればまあまあのreturnを得られる

主旨とは外れますが上乗せ効果が存在するとわかったところで実際にどの程度のreturnが得られるのか気になりました。そこで今回取り上げたSBに均等に投資し年1回リバランスする指数(SBリバランスと名付けます)を算出してみました。計算の関係上1994年6月~1994年12月のデータは省いてあります。

1994年の年末に100ドル投資したときの投資額が2016年12月末にどうなっているかです。SBリバランスは9指数中4位とまあまあな成績を残しています。(1位~3位はモメンタム、クオリティ、リスクウェイト)

年率 

時価 SBリバランス
return 9.6% 11.0%
Volatility 18.6% 16.3%

年率のreturnは時価に対してSBリバランスは1.4%ほど高くなっています。上乗せ効果は存在する(市場の非効率性がある)と言ってもSBへの投資で得られる恩恵はこんなものです。しかも今回の指数は全てGross(配当再投資、課税無し)なので現実に得られるNet(配当再投資、課税有り)のリターンだともっと上乗せ効果は小さくなるでしょう。また短期売買を繰り返したり信託報酬が高めのアクティブファンドに投資してしまうとあっさり消えてしまうはかないものだと思います。

長くなったので今回はここまでとします。次回以降に以下を記事にしてみたいと思います。

  • 個人投資家がSBへ投資する実際の方法と注意点
  • 市場が非効率的な理由と非効率性が将来続くのかどうかの考察

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